ワンエクロゴ

冬のトカラ列島、調査ダイビングを終えて 〜ワンエク航海記〜

木村尚之

「船、凍ってるから、滑らないよう気をつけて。」

寒波と放射冷却の影響で凍った夜露が船の甲板をアイスバーンに変えている。

ー冬のトカラ列島を奄美まで縦走しながら調査ダイビングをするー

それはこれまで誰も成し遂げたことがない冒険だ。

ダイバーたちがお互いに声をかけ合いながら機材の準備をしている様子を操舵室から眺めつつ、暖機の為にエンジンキーを回した。

少し手が震えたのは長年やりたいと思っていた冬の調査クルーズがついに実現するんだという高揚感と、

これから2週間、冒険の海へ繰り出す船の舵を取るという緊張感の所為だろう。

2023年12月24日

7時30分

最低気温0.4度

最高気温14度

快晴

僕らにとって新たな冒険が始まる記念すべき日。

「出港します。」

幾分トーンを押さえ努めて厳粛な空気を纏わせてメンバーに伝える。

その方がなんだか相応しい気がした。

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【冬のトカラ調査企画】

昔からやりたかったけど中々実現出来なかったのが冬企画。

船のチャーター料に見合うゲストが集まらないだろう、とか時化が多く企画しても中止になるかも、とか色々理由はあったがワンエクを導入した事でそうした経費面や出航率の問題はある程度クリアになった。

しかし2022年は自身の怪我で冬の間全く身動きが取れず涙を飲むことになる。

そして2023年、12月24日から28日の縦走下りに3名、31日〜2024年1月2日の奄美発着悪石島、宝島に9名のダイバーが参加してくれた。

4日午後から6日の縦走上りはスタッフのみで調査、撮影を行なった。

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出港直後は20度だった水温も、前日までの寒波で真っ白に雪化粧した屋久島が見える頃には23度を越えていた。

冬の時化を覚悟していたが拍子抜けするくらい凪の海。

年末年始、所要で参加できない平田船長に代わり船長を務める身としては、ホッとする気持ちもあったが、多少時化た海もしっかり経験しておきたい、そんな思いもあった。(もちろん、後に嫌というほど体験できるのだが(笑))

トカラ海域が海の難所、と言われる理由は黒潮の存在によるところが大きい。

潮流が速いエリアが広くちょっとした風でも強いうねりが発生する。

この強い、というか重いという感覚は実際この海域で時化の中操船したことがある人にしかわからない感覚だと思う。

他のエリアだと潮流の速い局地的なエリアで起きるようなうねりが延々と続く感じ?

しかも船体に当たってくる波の圧が他のエリアとは比較にならないくらい重い。

Wonder Sea Explorer、通称ワンエクはこの難しいエリアでダイビングクルーズを運行する為に導入した船だ。

トカラの潮流やうねりに負けない重くて強い船体、波を切る船首の絞り込み、見晴らしの良い操舵室。

2機のエンジンの心地よいターボ音を響かせながらワンエクは冬のトカラ海況を越えた。

「次のポイントまで後30分です。」

レーダーで予定ポイントに船影がないことを確認した僕は舵を芽瀬に向けた。

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【黒潮】

黒潮は、東シナ海を北上して九州と奄美大島の間のトカラ海峡から太平洋に入り、日本の南岸に沿って流れる海流で、流速は速いところでは時速4ノット(約7.4km)以上に達し、その強い流れは幅100km、輸送する水の量は毎秒5,000万トンにも達する。

この黒潮がトカラ列島の岩礁にぶつかったときに生じる強力な乱流によって表層に湧き上がる硝酸塩は年間最大で1平方キロメートル当たり約2万トン。

これはこれまで世界の海で報告された輸送量の中で最大規模のもので、この大量に湧き上がった硝酸塩がプランクトンを育み、トカラ海域の豊かな生態系を支える要因となっている。

時期やタイミングによって流れの強さや流軸に多少の変化はあるものの、トカラ列島はまさに黒潮の只中にある、と言っても過言ではない。

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「もうね、群れ祭り!」

「ヤバい、タイガー出た!」

「ハンマーリバーや!」

ラダーを上がってくるダイバーたちが嬉しそうに感想を伝えてくれる。

「冬のトカラってきっと面白いんだろうな」という調査前の想像は初日にして「冬のトカラもやっぱり面白いな」という確信に変わっていた。

心配なのは天候で、天候に恵まれた日は当然のように素晴らしい結果を残せた。

けど、僕らが重視しているのは大物と遭遇する、とか、ものすごい魚群に巻かれると言った結果では無く、未開の海で潜ると言うことに対しての準備や過程に手を抜かない、と言うことだ。

どの海にもそこにしか無い素晴らしい魅力があって、ガイドはどうやったらその海の魅力を最大限発揮出来るか考え、観察し、敬意を持って海と向き合う準備を整える役割を担う。

海が95%でガイドに出来ることなんて5%くらいなもんだと思ってるんだけど、それでもその5%の手を抜かない事が長い目で見ると大きな違いを生む、と僕らは信じている。

なのでいつものポイントでも、初めて入る場所でも過程は変わらない。

出会った海と向き合う、それが僕らのスタイル。

「午後から少し風が強くなって西側潜れなくなるので東の風裏でザトウクジラを探してみましょう」

そうアナウンスしつつ、僕の視線はすでに悪石島の沖、畝神岩の彼方にクジラのブローを探していた。

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【ワンエクガイドポリシー】

・respect 

自然を、仲間を尊敬して行動します。

・awareness 

常に意識を持って観察し的確な状況判断に努めます。

・exploring 

尽きない興味と情熱で、新しい世界への探求を続けます。 

僕らは常にこのポリシーに則って行動している。

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「冬でも意外と凪が多いんだね〜」

操舵席の隣に座っているかな子に会話なのか独り言なのかわかんないトーンで話しかける。

多分「そのセリフ、この航海中3回目ですよ。」とか思われてるんだろな、とか思いつつも、何か喋ることで気が紛れるから独り言のように口に出てしまう。

ワンエクの移動はとにかく長い。

凪の日はお互いが好きな音楽を流しながら取り留めも無い会話が続く。

いや、大抵かな子は途中で寝てしまうので僕の1人カラオケ状態になるんだけど。(笑)

ゲストもみな思い思いに過ごしている。

寝台で寝転んでる人、ゲームしたり音楽聴いたりしてる人、ドリンクコーナーでオヤツ食べながらだべってる人たち、外で景色を眺めつつ過ごす人。

何か見所があると、例えばイルカ出ました!とか間も無く立神岩(高さ104mもあるトカラのシンボルタワー)です!とかアナウンスを流す。

そうすると興味ある人はわらわら外に出てきて撮影タイムが始まる。

枕崎から奄美大島まで直線で約320キロ。

途中、黒島、硫黄島、竹島、口永良部島、屋久島などで構成される大隅諸島や7つの有人島と3つの無人島で構成されるトカラ列島が並んでいる。

この全てが僕らのダイビングエリア。

ワンエクの航海エリアはおそらく日本のダイビング船の中で最も広い。

どの島にもとても魅力的な景色、歴史、文化があり、そして大抵の島には素敵な温泉がある。

決まったルートは存在せず、天候を見定め島の状況を確認してからルートを決める。

次のポイントまで2時間移動です、なんてこともしょっちゅうだ。

なので、本でも音楽でもゲームでも、何かしら時間を潰せるものは持ってきた方が良いだろうと思う。

何しろ時間はたっぷりあるのが船旅の魅力だから。

「宝島が見えてきました。港の壁画は一見の価値ありですよ。」

上から見たらハートの形の島だよ!って付け加えようと思ったけど止める。

だってなんだか照れ臭いでしょ(笑)

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【ワンエクの装備】

19トン(容積)、全長23.5m。

ワンエクは日本の法律で許容される小型船舶としては最大サイズの船だ。

元々は男女群島行きの40人乗りの大型瀬渡し船だったのをダイバーが使いやすいように改造した。

船室は全部で7部屋。

そのうち4部屋をダイバー個人の占有スペースとなる寝台が占めている。

残りは操舵室、そしてタンクの充填を行うコンプレッサールーム、ドリンクやオヤツ、小さなロッカーやトイレシャワー、カメラ置き場のある共有スペースだ。

エアコンは6台。

夏でも冬でも船内は快適な温度に保たれる。

機関室には600馬力のエンジンが2機、そして25000Wの発電量を誇る大型の発電機が据えつけてある。

船内でレンジもポットも炊飯器もドライヤーも24時間いつでも同時に使えるし、コンプレッサーも余裕で回る。

シャワーは内と外に2台。

トイレはウォシュレット付き。

限られたスペースの活用を考えた時に最優先したのは、10人がゆっくり眠れる事。

犠牲になったのはみんなで過ごす共有スペース。

宿泊は島の民宿と船泊を組み合わせて計画を立てる。

船泊の時には港に大型のタープを貼ってテーブルを設置する。

共有スペースは港、寝るのは船内、そんなイメージ。

海外のクルーズ船と比べるとやはり小さい。

これは日本の法律上解決出来ない事なのでしょうがないけど、限られたスペースを上手く使えてる、と今は思う。

けど毎年改善点が出てくるので改装は終わらない。

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「枕崎が近づくと3マイル先からでもカツオ節の匂いがしますもんね。」

前にポーターのたーぼがそう言って笑ってたのを立神岩が見えた頃に思い出して窓を開けてみた。

2週間ぶりの帰還。

懐かしい景色。カツオ節の匂いはしなかったけど。

「ありがとう、楽しかったな。」

かな子も僕もヘトヘトだったけど、多分この2週間で僕らは大きな経験値を得たと思う。

それは冬のトカラも素晴らしかった!と言う事実以上に大切なこと。

もっと広く、もっと遠くへ。

僕らの冒険は続く。

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【冬のトカラ調査企画まとめ】

⚫︎期間

12月24日〜1月6日

(出船11日、休暇2日、欠航1日)

今回に関していうと天気は典型的な冬の周期変化で、凪、午後時化、時化、午前時化、凪というパターンが多く不安定な春と比べて読みやすかった。

大時化で出港できなかったのは大晦日のみ。

最高気温は14〜22度で平均すると20度くらい。

31日と1日の朝の寒さはちょっと応えたが、概ねとても過ごしやすかった。

但し、年に数度ある強烈な寒波にあたるとこうはいかないだろうとも思う。

⚫︎総移動距離1000km超

使用燃料7500リットル

ザトウクジラや外洋の曽根の調査もありかなり走り回った。

その分使用燃料もなかなか、、、

広大な海域なのでしょうがないのだけど。

⚫︎ダイビング

口永良部サワディロック

芽瀬

中之島摩天楼

中之島摩天楼

中之島軍艦

諏訪之瀬島須崎

悪石島ハヨームネ

悪石島ホエールウォッチング

小宝島オールブルー

宝島黒山の瀬

宝島黒山の瀬

小宝島リトルキッド

小宝島オールブルー

悪石島ホエールスイム

悪石島ノンゼ崎

悪石島ハヨームネ

悪石島ハヨームネ

小宝島オールブルー

小臥蛇島雄神瀬

芽瀬

芽瀬

黒島ミノティラ

ほぼ全てのダイビングでカマストガリサメ、ハンマー、イソマグロやロウニンアジ、ツムブリの群れに遭遇。

タイガーは芽瀬、雄神瀬、ミノティラで3回4匹。

芽瀬には大型のハンマー10〜20匹の群れも常にいた。

黒山の瀬では10月に続きシルバーチップに遭遇。

サメや大物との遭遇は春並みかそれ以上だと感じた。

雄神瀬とオールブルーのギンガメアジの群れの規模も冬が圧倒的だった。

ザトウクジラは悪石島周辺で6頭くらい目撃。

親子クジラとのスイムにも成功。

宝島では陸上からブリーチングを目撃。

沖縄海域への下りルートの一つであるのは間違いないだろう。

ただし後半は全く姿を見せてくれなくなったが、、、

下りの時期など含め今後も調査を続けたい。

春と同じく、大型のサメや回遊魚とザトウクジラの両方に出会える素晴らしいシーズンであることがわかった。

縦走下り(12月24〜28日)

悪石&宝島(12月30午後〜1月2日)

スタッフ調査クルーズ(1月5日)
スタッフ調査クルーズ(1月6日)

【2024〜2025冬企画】

①クリスマスショート

2024年12月23夜〜27日リクエストあったんでやってみようかな、と思ってます。7名様限定での航行となります。

②年末年始ロングクルーズ!

2024年12月28夜〜2025年1月5日クルーズ7日の大型企画。

7名様限定での航行となります。

残1席となりました!

③三連休企画屋久島発着冬の北トカラ

2025年1月9日夜〜13日

ファストパスメンバ先行予約受付中(一般予約は2024年1月16日より)

8名様限定での運行となります。

詳細お問い合わせは⬇️⬇️⬇️よりお願いいたします。

2024.01.10木村 尚之

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