2025.08.01
磐座- IWAKURA 神宿る島の巨石と光
一筋の光明
2019年の7月番組の撮影も後半に差しかかる頃になると、撮影チームの表情に疲労のあとが見え隠れしてきた。ロケ地は沖ノ島に限られているため、船内で体が跳ね上がるほどの荒波の中でも、往復4時間の移動を連日繰り返していた。強風により潜りたいエリアへ潜れないばかりか、クロマグロなどの回遊魚への出会いも果たせていない。撮れ高に反して疲労と焦りばかりが積み上がっていった。
そんな中、一筋の光明が見えた出来事がある。これまで何度も潜り続けた島の東側エリアで、巨石に砕ける波飛沫に誘い込まれるように、うねりに身体をゆすられていた時のことである。巨石同士が積み重なる岩陰の奥から、黄金色に光るアジの群れが無数に飛び出してきた。慌てて動画を回しながら、アジの群れる暗がりの中に吸い込まれていくと、真っ暗な闇の中に眩しく輝く光の筋が煌々と射しこんでいたのである。
「磐座だ!」 神々しい光景を前に思わず息を呑む。
岩壁に挟まれて宙を舞うような巨石の隙間から強烈な光のシャワーが洞窟内に射し込み明るく照らしている。そしてその光の周囲を小魚たちがぐるぐるとまわりながら乱舞している。まるで降り立つ神の存在を祝福しているかのようである。その後、撮影チーム全員でこの景色を共有して確信した。撮影はうまくいく!きっと我々を神が導いてくれている。
その日の晩、糸島のベースに戻ると私とチーフガイドの木村さんはノリノリだった。夜中まで大好きなロックミュージックを聴きながら、その日見つけた光射す洞窟の話で盛り上がった。
卓哉さん、ポイント名はどうしますか?
あれこれ悩んでいた矢先、室内に流れていた佐野元春の「ロックンロール・ナイト」の鮮烈な歌声が耳に飛び込んできた。
ザ・ロック(The Rock) はどうでしょう?
プロレスラーの名前でいますよね (笑)
あっ、ですね(笑)それでは、Rocksにしましょうか
決まりですね!
こうして巨石が織りなす洞窟ということで、その名はROCKs(ロックス)と名付けられた。私と木村さんが大好きなロックミュージックからその名を思いついたという事実はここだけの話ということでどうかご容赦を。
さて、その後2019年9月まで続いた番組のロケだが、どこまでも途切れることのない過去最高のイサキウォールのシーンや、クロマグロの大群にも遭遇でき、大成功のもと撮影を完遂した。そして、私は翌年から福岡水中写真塾の活動などで毎年福岡を訪れ、この海の姿を定期的に撮影してきたのである。