ワンエクロゴ

2024.07.15

「止まって待つ」はダイビングの名言だ。

■Day.1st

DIVE ① 黒島ミノティラ
DIVE ②黒島ミノティラ
DIVE ③湯瀬
DIVE ④口永良部島野崎沖ブルーウォーター

タイガーシャーク

枕崎港を出港したワンエクはまず2時間半ほどかけて黒島を目指す。凪の海を走るのはやはり気持ちがいい。割り当てられたベッドスペースは人ひとり寝転がるには十分な空間で、すこぶる快適だ。身の回りを整えて、ちょっと時間もあるし、本でも読んでゆっくりするかなぁと、ウトウトとしだした矢先に船のスロットルが緩む。何事かと思って起き上がると「今、船長がマンボウを見つけたみたいです!」と木村さんの船内アナウンスが響く。

半分寝かけた目をこすりながら、もぞもぞと船の前まで行くと大きな背鰭が、起き上がり小法師のように立ったり寝たり。こんなチャンスはなかなかないと、そそくさとウエットスーツを着込み、カメラを用意して船尾でスタンバイ。まずはかなこさんが1人で入り様子を見る。かなこさんが入ると、なかなか勢いよく泳ぎ始めるマンボウ。かなり神経質な様子。かなこさんも付かず離れず追走する。船は一旦その場から離れ、マンボウの進路を予測し、先まわりし、ある程度離れたところから僕は入水した。「もう少し左!正面!」船から木村さんの指示が聞こえる。水面に出る鰭は見えるものの、顔をつけるとマンボウの姿は見えない。そんな調子でしばらく泳いでいると、僕の視界から完全にマンボウの鰭は消え去っていた。残念無念。しかし「最後の最後で結構近くまで寄れました〜!」と、ボートで合流したかなこさんのカメラにはバッチリとウシマンボウの姿が収められていた。結果として、僕がかなこさんの目の前に導いたような形か…。まぁそれはそれでよし。クルーズの良い記録ができたのは間違いない。

気を取り直し、最初のダイビングポイント 黒島の「ミノティラ」を目指す。ここは、木村さんが海図を見ている時に、気になった所謂「沈み瀬」で、直感的に「ここは絶対に面白い!」と感じたらしい。2年ほど前から実際に潜り始め、その魚影に驚かされたという。そしてこのポイントを一躍有名にしたのがイタチザメ。英名でタイガーシャークと呼ばれる巨大なサメの出現だった。

世界各地の海でシャーク・フィーディングダイブと呼ばれる、所謂餌付けを行うダイビングが一部で人気を博している今日。SNSを眺めていると、イタチザメなどの映像が流れてくるが、個人的な見解では不自然にしか見ない。イタチザメを撮りたい気持ちは山ほどあるが、餌付けなどはせず、自分の身で彼らの生の息遣いが感じられるような写真を撮りたい。といつも思っていた。しかし、そんな状況はなかなかあるものではない。そもそも、狙って自然のイタチザメに遭遇できるダイビングポイントなんて、これまで潜ったこともないし、聞いたこともない。

「ちなみに遭遇率ってどれくらいなんですか?」下世話な話だとは知りつつも木村さんに問うてみる。

「うーーーーーん…。7割…?」

「な、7割!?」

大抵こういう時の確率っていうのは、2、3割が関の山、自然を相手に撮影している者としての肌感覚は、そんな程度。それが7割とは…。木村さんの返答が意外すぎて、声も裏返るわ…。

「いや。でも実際それくらいは見られています。楽しみにしてください。」

誇張のない自然な声音が印象的だった。

船長の合図と共にミノティラに潜行し始める。やや濁りを帯びてるが、透明度は20mほどは十分にある。濃く少し薄暗い景色に、イタチザメがやってくる雰囲気がプンプンと漂う。

水底が見える前からツムブリの一団が僕らの周囲を包んだ。泳ぎ進むにつれ、そこにギンガメアジ、ウメイロモドキ、タカサゴ、ナンヨウカイワリ、そしてニザダイの途方もない巨群が入り混じる。向こうの方にはムレハタタテダイも大きく群れる。この魚群だけでも凄い。節操のない話であるが、この瞬間、僕の脳裏からイタチザメのことは完全に消え去っていた。

緩い潮に乗り、少し視界が開けた踊り場のようなところに出る。水深は25mほどか。ガイドのかなこさんを先頭に、何かが現れるのを皆で待っている。僕はグループの最後尾で、魚群を撮影していると、水中ホーンの乾いた音が響く。反射的に振り返り、ガイドの指す先を眺めると3mほどの巨大な影が見えた。

「来た!」

だが一瞬の緊張ののち、すぐに影は去っていく。やはりかなり警戒心は高い。サメの仲間は好奇心と警戒心を併せ持つ、動物的に優れた生き物だと思っているが、そこは流石のイタチザメ。どちらの感覚も一級品の鋭さを感じさせてくれる。その後も遠目に何度か、大きな影を目撃する。どうやら僕らは2、3個体のイタチザメに包囲されているようだ。

枕崎マックでのブリーフィングの際に「サメに遭遇したら、まず止まって待ってください。ストレスを与えなければ、必ず戻ってきます」との案内がゲストの皆さんにも響いた様子。そのお陰か、何度も何度もイタチザメは僕らの視界に入り込んできた。

グループの最後尾にいた僕は、皆に背を向けるように魚群の撮影をしていた。すると奥の方から、巨大な影がたくさんのツムブリを従え、正面から接近してくる。自分の心拍が上昇するのが分かる。影を捉えると、そこから更に引きつけるように、こちらに誘い込む。この辺りは言葉では言い表せない技術になるのかもしれないが、彼らの「推進を受け止めるように流す」そんな立ち位置を取らねばならない。乱暴な言い方をすれば「邪魔をしない」ということになるのだが、カレント、サメ、群れ、身の回り全ての情報を察し、その一部になりきる。それを無心・無思考で行うのだ。

ファインダー越しにも、強烈な縞模様が見えた。まだ自然の虎には遭遇していないが、本当に美しい虎模様。そしてそのシルバーの身体は暗い水底でも輝いているように見えた。

興奮冷めやらぬままEXし、皆でイタチザメ遭遇の興奮を語る。こんなこと、なかなかできる経験ではない。いやいやしかし、本当にすごいポイントを見つけたものだ。ネタバレのようになって恐縮だが、初日のファーストダイブにして、今回のクルーズのクライマックスはやってきた感じだ。

1時間ほどの休憩の後、2本目も同じくミノティラに潜ったが、この短時間のうちにカレントが大きく変わり魚群も散り散り散漫状態。水底で木村さんと2人でサメの影を粘って待ったものの、現れず。「こんなこともあるさ」と、潮に乗りながら二人で安全停止を始めた直後、木村さんの背後から大きなイタチザメが忍び寄る。「あっ!」と思った時には去って行ったが、浅場で見えたイタチザメはギラギラに光っていた。

「あれは、お見送りタイガーですね。笑」

木村さん曰く、彼らには出現パターンがいくつかあるらしい。朝イチに見たのは「後ろからタイガー」、あとは「いきなりタイガー」、「下からタイガー」なんかもあるらしい。こんなどうでも良い話で、ワンエクにピックアップされるまで水面で盛り上がっていた。こういう時間、結構好きです。

その後はポイントを移動し、ムレハタタテダイがゴチャっと群れる「湯瀬」に行くが、全力ダウンカレントに巻かれ、これ以上は無理と判断し、早々に皆でEX。明日以降、海況が芳しくない予報が出ていたので、4本目に口永良部島の野崎沖でブルーウォーターダイブを敢行。

エントリー直後から大きめのカマストガリがぶりぶりっと泳いでいる姿が見える。数は多く、良い兆候。先頭を泳ぐ木村さんもノッてきたのか、手元でドンドン・ガリガリ鳴らされるペットボトルの音が、妙にリズミカルになっている。さすが元ギタリスト。いい感じだ。

一瞬木村さんがダッシュし、指示棒を指した。僕も反射的にカメラを向けシャッターを切るが、写真に魚影は写らず。しかし、肉眼では小振なクロマグロの群れは確認した。いつかクロマグロの群れもしっかりと撮影したいものだ。

そして、僕は見ることができなかったが、ゲストの1人が見慣れぬサメを撮影。写真を見ると大きな背鰭が特徴的なサメだったが、判別はできず。そこで知り合いのシャークジャーナリスト沼口さんに写真を送り、見てもらったところ「ヤジブカでは?」との回答が送られてきた。これもなかなか撮影できるサメではない。やはりトカラ周辺の海は、心踊る出会いが多いんだな。

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