2024.05.15
未知なる体験を切望する“真の冒険者”たちが集う海
「黒潮がもたらす生物の営み」
大物生物との出会いは一瞬だが、そこに向かわせるプロセスは長く険しい。しかし、それは一枚の写真の情報量では伝えきれないものだ。実際、今年4月のトカラロングクルーズでは初日に口之島まで南下するも、爆シケで潜ることのできるポイントやドリフトで流せる距離も限定された。「待てば海路の日和あり」の言葉を信じ好機を待ったが、その後さらに激流と風波が合わさり、いよいよ潜れるポイントが港の周辺だけとなる。しかし、そんな四面楚歌の状況で見た「港のヨーコ」のサンゴの美しさは格別だった。トカラで潜る者はサメやマグロ、ロウニンアジなど、大物との出会いを目的にするダイバーが大多数である。サンゴやイソバナなどには目もくれない。それは如何なものだろう。多面的に海を見つめると、改めて黒潮がもたらす生物の営みに気づくのではないだろうか。
「躍動する魚たちの無駄のないフォルム」
数日経ち、風がいくらか落ち着いたため、ブルーウォーターをひたすら流すような大物狙いのギャンブルダイブを繰り返すも、一枚もシャッターを切ることなく浮上するようなダイビングを何本か経験した。しかし、これが自然本来の姿であり、人間がどう足掻いても太刀打ちできない大きなパワーや厳しさを体験すること、その過程こそがアドベンチャーなのである。激流の中を悠然と横切るカマストガリザメやハンマーヘッドシャークに遭遇するも、思うように近寄れずにまともに写真にすることができない悔しいダイビングが続く。だが不思議と虚しさは感じない。黒潮の本流がぶち当たる激しい環境で育った躍動する魚たちの無駄のないフォルムや動き見ていると、彼らと同じ海にお邪魔しているだけで、とても貴重な体験なのだと感じるのである。