ワンエクロゴ

2026.07.01

鬼界 KIKAI

畏怖の念の先へ

噴出する硫黄ガスで目が開かないほどの硫黄岳の山頂付近。

今回の写真展で伝えたいメッセージの一つが、超越的な自然と対峙した時に感じる畏怖の念の先にある世界です。約7300年前にこの地で起きた巨大噴火は南九州の縄文人を文化もろとも殲滅させてしまうくらいの破壊力がありました。それがこの海の生態系の礎となっているのですが、約25km×15kmにおよぶ鬼界カルデラの大部分は深い海の底です。その最深部は水深600m以上もあり、その全貌を拝むことは出来ません。その巨大なカルデラの存在をどのように写し、どのように表現するのか。もしかしたらそれは今後の私のライフワークに繋がっていくのではないのかと直感しました。

時に自然は我々人類に牙を向けます。しかし、異常気象による天変地異も地球にとっては“くしゃみ”や“あくび”のようなものなのかもしれません。無力な我々はどう抗おうと太刀打ちできません。その圧倒的な自然に敬服した時、時に人は神の存在を重ねます。この海域で潜り始めた頃、条件の良いとされる海中オーロラの写真だけを求めていた時、天に向かって神頼みした事がありました。今思えば、なんて浅はかな行為なのだと思います…。しかし、ある時から本当に写したいのは、好条件とされる海の姿ではなく、常にそこに存在する鬼界カルデラのエネルギーそのものだと感じたのです。その考えに及んだ時から、巨大カルデラに抱かれるような感覚を大切にしながらシャッターを切ってきました。硫黄岳の火口付近で硫黄ガスに覆われ、畏れで身動きが取れなかった時も、地球の息吹に包み込まれたようなイメージを持つことで、恐怖が慶びに変化していったのです。

硫黄鉱山の遺構には硫黄ガスで朽ち果てたショベルカーが置き去りとなっている。
硫黄岳の山頂付近から。海に流れ出る温泉が海を乳白色に染める。
硫黄岳の中伏にある自然崇拝を偲ばせる祠。

ここからが最も伝えたいことなのですが、そのようなリアルな自然のもつ圧倒的なエネルギーは実際には写真の中には写らないということです。逆を言えば、写らない存在にこそ真実があるということ。火山ガスが噴出する音だったり、硫黄の匂いだったり、火口の下から噴き上げる熱風だったり、それら地球の息吹のようなものは、紙の上に再現はできませんが、表現はできます。その場所に立ち、五感で感じとった巨大カルデラの気配を如何に一つの空間に表現していくのか。これが写真展で最も大切にしたいところです。ですから、ぜひ写真展会場へお越しください。

硫黄岳の山頂から海を俯瞰で眺めた時、天にある超越的な存在が神だとすれば、遥か海の底にある巨大カルデラに鬼の名が付けられたことが腑に落ちました。「鬼界 KIKAI」というタイトルには、唯一無二の世界という意味も込められています。もしかしたら、それらの対極にあるのはバーチャルや映える画像の世界なのかもしれません。すぐに消費され、さらにそれをアップデートする写真が求められる昨今。AIで現実を超えた世界を構築できる時代において、嘘偽りのないリアルな自然写真のアイデンティティーは崩壊しつつあります。勿論、映える写真を完全に否定するつもりはありません。しかし、水中オーロラや巨大生物との出会いを求めてこの海や自然に興味をもっていただいた方には、映える写真を撮るだけではタイパやコスパが合いません、そのように伝えておきたいですね(笑)

AIが乱立する世界において、嘘が無い写真かどうかを見分けるのは、もはや嗅覚に頼るしかありません。しかし、そんな外からの評価より大切なのは自分にとってその写真に価値があるかだと私は思います。私にとっては、珍しい絶景の一枚よりもありきたりの日常で撮影した家族のスナップ写真に価値があります。それは自然に対しても考えは変わりません。プロだから撮るのではなく、そこに巨大カルデラがあるから撮るのです。そうした無垢な写欲が生まれるか否かは、長い時間を共に過ごすスタッフとの人間関係も重要です。これは長年撮り続けていけるテーマかどうかを決める大切なバロメーターであり、きっとワンエクで時間を共にした皆さんも共感できる思いではないでしょうか。来年は鬼界カルデラの自然を山、海、陸から撮影するフォト企画を開催しますので、是非興味のある方はぜひご一緒しましょう。

*メインビジュアルの写真以外は写真展の展示作品とは異なります。
「鬼界 KIKAI」の作品はぜひ写真展会場でご覧ください。

以下は、2026年6/11〜13のエキスパート企画に乗船し、リクルーズ用に撮り下ろした最新カットです。

黒島周辺ではウメイロモドキの群れの数に圧倒される。
産卵期なのかニザダイが壁になって泳いでいた。
オーロラの中から現れたカマストガリザメ。
湯瀬はマダラエイが多かった。
この海の底には直径10kmの新たなマグマ溜まりが存在する。
疾風のように過ぎ去るギンガメアジの群れ。
晴天ベタ凪が続き、海中も色の濃いオーロラが見られた。

インフォメーション

写真展情報

中村卓哉作品展「鬼界 KIKAI」

会 期:2026年7月24日(金)〜8月6日(木)
時 間:11:00〜19:00 (会期中無休)
会 場:ソニーイメージングギャラリー銀座
住 所:東京都中央区銀座5-8-1 銀座プレイス6階
URL:https://www.sony.jp/camera/imaging-gallery/detail/260724/

トークイベント情報

【事前予約制・人数限定】ギャラリートーク開催のお知らせ(参加無料)
閉館後に、事前予約制・人数限定で中村卓哉さんのギャラリートークを開催します。
ゲストに、写真家のむらいさちさんと古見きゅうさん、魚類研究者(宮内庁上皇職 御用掛)の林公義さんをお迎えします。
オンライン予約による先着受付順(20名)です。
https://www.sony.jp/camera/imaging-gallery/detail/260724


開催日時

  • 2026年7月25日(土) 19:10-20:10  
    ゲスト:むらいさちさん(写真家)
  • 2026年8月1日(土) 19:10-20:10 
    ゲスト:古見きゅうさん(写真家)、林公義さん(魚類研究者)

開催場所
ソニーイメージングギャラリー 銀座 (銀座プレイス6階)

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